真夜中に口笛が聞こえる
「これで、よし」

 次の日、美咲はゴミ置き場の目立つ壁に、信一郎と共に作ったプラスチック看板を、防水テープで貼り付けた。

「これでも捨てたら、注意しなきゃね」

 美咲は白河さんの家を一瞥し、溜め息を付いた。
 そして、エプロンで手を拭い、新居へと戻っていく。


 ――しかし、やはりそこには様子を伺う視線があった。

 息を潜め、男は植物の茂みから目を凝らし、看板を確認する。

 舌で唇を舐め、文字の一つ一つを追った。


 ◇


「ねぇ、お母さん。この傘、汚れが取れないの」

 美咲が洗濯物を干していると、美佳がゴミ置き場から抜き出した傘を持ってきた。

「どうしたの?」

「この傘の先の部分に、黒い汚れがべったりと付いてるの」

「ちょっと貸して見なさい」

 傘の先端から大きく、黒い汚れが付着している。

 美咲はホースの水を掛け、靴を洗うブラシで擦る。

 バケツの中で、何度も何度も擦るうちに、少しずつ黒い汚れが落ちる。

「何とかなりそうよ」

「よかったー」

 美咲は力を込めて擦る。美佳も同じ気持ちで見つめた。

「ほら、とれたわよ」

「ありがとう、お母さん」

「庭に広げて、乾かしておいで」

「はーい」

 美佳は嬉しそうに、庭の中央へ躍り出た。


 美咲は汗を拭うと、バケツに溜まった重い水を、排水口に流した。
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