真夜中に口笛が聞こえる
◇第十一章 それから
 ──事件から一年後。


 私はフリージャーナリストの金山静江である。

 今から述べることは、行方不明となっていた白河民代への取材を敢行した時のありのままの記録と、私自身で調べ上げた結果をまとめたものである。


◇◇

 病室はどこか懐かしい香りが漂っていた。

 白河民代の顔には、ホクロのような黒い斑点が、何箇所も残っていた。

 特別に隔離された病棟の一室。ベッドで体を起こし、民代は話が出来るまで回復していたが、体には沢山のチューブが取り付けられ、ベッドの回りは機材で囲まれていた。


 ──白河邸の庭の植物は、全て民代の背中から畳を貫き、床下を伝って生えていた。

 既に行方不明となった二人の人間を取り込み、養分として吸収している。茎や葉脈には、民代の血が流れ、切断すれば痛みが走り、血が噴出すのだ。

 堪えきれず、民代は悲痛な叫び声を上げ続けた。

 痛い、痛いと言って、一晩中、夫に助けを求めたそうだ。

 ごめんなさい。
 ゴメンナサイと。

 しかし、民代は植物に同化していたのではなく、養分は民代の心臓で還流させていた。

 民代の心臓は植物全体を担っていたために強化され、そのまま切断すれば、体内で血管が破裂してしまうほどの血圧を、筋肉が作り出していた。


 白河が死亡し、民代の元に派遣された研究者たちは、ある結論に達した。

 それは、研究者たちはバイパスをつくり、長い月日を掛けて、徐々に民代の筋力を奪うことだった。そして、その試みは成功する。

 ようやく、血圧が安定し、心臓の筋力が弱まった頃を見計らって、民代の体から伸びた、血圧に見合った太さの根を、一本ずつ切断する作業を開始した。

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