ピエモンテの風に抱かれて

壁一面に収められている膨大な数のCDとDVD。パソコンに繋がれているシンセサイザー。音響を重視したマニアックなオーディオセット。

机の上には乱雑に置かれた楽譜の山が。壁には昔から愛用している2本のギターがかかり、龍が憧れているミュージカルスターのサイン入りポスターも貼られている。

ベッドには、まだ畳まれていない洗濯物が散乱し、枕の上には映画かドラマの台本が開いたままになっていた。自分の台詞が赤ペンでぐちゃぐちゃにマークされているのが見える。



トリノにいた頃と全く変わらない、生活感丸出しの部屋があった。



「やっぱりリュウね。ちっとも変わってない!」



樹里がケラケラと笑い出すと、レナが嬉しそうに言った。



「やっと昔のジュリ姉に戻ったね。それにしても良かったあ、ジュリ姉ったら、アニキのことなんてとっくに忘れて、てっきりサーシャと仲良くしてるかと思ったのに!!」



「は? サーシャ!?!?」



突然思わぬ人の名前が飛び出すと、樹里は瞬間的に固まってしまった −。
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