ピエモンテの風に抱かれて

「ね、サーシャ元気してる? 相変わらずステキなんでしょ!? 私がジュリ姉だったら、とっくの昔にサーシャに乗り換えてるのになあ」



つい最近も聞いたばかりのその台詞は、飛鳥から発せられたのと全く同じだった。



「ちょ、ちょっと待って。どうしてそこでサーシャが出てくるの…?」



「えー、だってまだ同じ会社にいるんだよね? あんなにイイ男なーんて滅多にいないじゃん」



これも飛鳥と同様に当たり前のごとく言い放つ。そんなレナに対し、龍は訝し気な視線を送っている。



「レーナ、俺達は話すことが沢山あるんだから、お前は早く退散しろ。カオルさんが痺れを切らしてるぞ!」



「ずるーい、私だってジュリ姉と話したいことが沢山あるのにぃ。でもやっぱり私はお邪魔虫だよねー。ジュリ姉はここに泊まっていけば?」



それが出来ればいうことはないが、何せ樹里は勤務中だ。



「さすがにそれは無理よ。本当は添乗員に自由時間なんてないの。夜中と言えど、いつお客さんから呼び出しがかかるか分からな……」



そう言いかけた矢先、軽快な音楽を奏でながら携帯が鳴った。その着信音を聞いた樹里は、慌ててバックに手を伸ばした。



「大変! アスカ先輩からだ」



「おっ、例の先輩からか? 後で俺にも替わって。お礼言わなきゃな!」



龍の気遣いに嬉しくなると、樹里は小さくうなずきながら電話に出た。


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