ピエモンテの風に抱かれて

「………ということで色々ありましたが無事に会えまして、いまリュウのマンションに…………もう少ししたらホテルに戻ります。あ、いまリュウに代わりますね。彼からもお礼がしたいと言っているので」



携帯をこっちへ寄こせと手招する龍。まるで身内のような挨拶が始まった。



「アスカさんですね。初めまして、真田龍です。この度はジュリが大変お世話になりまして…………」



電話口から微かに聞こえるのは、えぇー? 本当に本人ですかぁ!? といった、明らかにいつもよりハイテンションな飛鳥のソプラノだ。



「………なるほど、そうですか。わかりました、ではジュリのことは任せて下さい。おやすみなさい!!」



「ちょ、ちょっと待ってリュウ! 任せて下さいって一体なんのこと?」



話を勝手にまとめて電話を切る龍に焦ってしまう。すると彼はニヤッと口角を上げ、



「明日の夕方くらいまで帰ってこなくていいってさ。もうドアガードして寝るから、ホテルに戻ってきても入れてあげないわよ、なーんて言ってたぞ」



「……は?」



「うん。明日はホテルで待機してるだけなんだろ? ちょうど良かったじゃないか」



「そんな簡単な話じゃないのよ!」



慌てて携帯を取りあげてかけ直そうとした樹里に、龍は平然と言ってのける。



「そうそう、ゆっくりしたいから携帯の電源も切るってさ。本当に気の利く先輩だなあ〜」




− そ、そんな…、フリータイムこそ大変だって言ってたのに −


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