ピエモンテの風に抱かれて
樹里が困惑する一方、一部始終を聞いていたレナは手を叩いて大喜びしている。
「ほうら、私の言った通りになったね。そうと決まったらこっちに来て!」
そう言って案内されたバスルームも他の部屋に負けていない。東京の夜景が見渡せるガラス張のビューバスはジャグジー付き。天井に設置されているのは最新システムのミストサウナ。一日の疲れも一気に吹き飛んでしまうような造りになっている。
「綺麗なバスルームでしょ? でね、ここにある女物は全部私のだから使っていいよ。下着も使い捨てのが棚に入ってるから」
女性用のメイク落としや化粧水、シャンプーなどのアメニティ一式は完全無添加で知られている有名ブランドもの。お洒落に関心の高い今どきの高校生事情が伺える。
「レナったら、こんなの使うようになったの? すっかり大人びて、本当に綺麗になったのね」
レナは照れたようにセミロングの髪をかきあげた。
「そーよ、私だって成長するんだよ。私ね、パパとママが旅行中はこの家に泊まってたんだ。アニキがちゃんと一人暮らし出来てるか見てくるように言われて。でも今日は家に帰るから」
なるほど。だから龍の実家が留守番電話になっていたのだと、改めて気づいた。
彼女は別れ間際、樹里に熱烈なハグをすると、チャーミングなウインクの余韻を残しながら玄関脇にある非常階段を降りて行った。