ピエモンテの風に抱かれて

− どうしよう…。何から話せばいいのかな −




お喋りなレナを見送ると、急に静かになった二人きりの空間に戸惑いを隠せずにいた。龍も同じ気持ちなのか、ソワソワと頭を掻いている。




− そうよ。サーシャが何だっていうの!? 他にも色々… −




やっと樹里が口を開きかける。

「リュ……」
「ジュリ、ちょっと待って!!」



「はい?」



「いいから待ってて。すぐに戻るから!」



慌ててバスルームに走って行く龍を見ると、急に良からぬ気持ちに襲われた。




− バスルームに置いてあった女物は全部レナのって言ってたけど、まさか… −




まさかまさか見られたくないものを隠しに行ったのでは? と思った瞬間、バシャバシャと勢いよく鳴り響くシャワーの音が廊下まで聞こえてきた。

そうか、シャワーを浴びたかっただけなのか −。それにしても少し不自然な龍の行動に首を傾げると、言葉通りにすぐに戻ってきた彼を見てはプッと吹き出し、お腹を抱えて笑ってしまった。



「やだ。あなたどこまで変わってないの!?」



そこにはヨレヨレのTシャツと短パン姿の彼がいた。目を半分隠していた前髪は濡れたままヘアバンドで上に持ち上げられ、さっきまで彼を飾っていた腕時計、ネックレスやピアスのきらびやかな面影は全くない。自然体のままの姿があった。



「…ごめん。家でまであんな格好をしてられなくて。アクセサリーってやつは苦手だし、髪は邪魔で仕方ないし…、本当は香水も全然ダメなんだ。ああ、もう堪えられねー、髪切りてぇ〜〜!」



樹里の笑い止まらない。もう一度お腹を押さえて言った。



「安心したわ。リュウは本当に変わってないのね。またこんな風に会えるなんて夢みたい!」



「だろ? 俺は昔のままさ。外見も中身も変わっちゃいない」



「そうね、本当にかわって……な……」






− な…い…? −






樹里の頭に例のスレッドの文字が過ぎる。




< いつも鏡見ててキモ〜イ。究極のナル! >




− 変わっていない? え? じゃあ、あの噂は何なの!? −


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