ピエモンテの風に抱かれて
「週刊誌の彼女とは、どういう関係なの?」
一瞬ギクッとした龍が、観念した顔つきになった。
「あの騒動を…知ってるのか? そうだよな、地球の裏側にもすぐに情報が伝わる時代になったんだから…」
「深夜のトーク番組も見たわ。キスの稽古をしてたなんて嘘なんでしょう? 本当のことを言って」
番組の中では、稽古だと言い張った龍。しかしそれは嘘だと見抜いた左手の癖を思い出すと、樹里は力強く問い詰めていた。
「あれはさ…、ミュージカルの大阪と東京公演の合間の出来事だった…」
龍は肩を落として語りだした。
「中締めってことで、舞台仲間全員で飲んだんだ。みんな凄い酔っ払ってさ、特に彼女がね。名前はミヤっていうんだけど。酒には強いはずなのに、あまり体調がよくなかったみたいですぐに潰れたんだよ」
「それで同じ方向の俺が彼女の家まで送っていくことになって…」
樹里は目を閉じて頷きながら耳を傾ける。
「そうしたら通り抜けようとした暗がりの公園で、いきなりキスされたんだ」
確認するかのように、樹里は龍に聞いた。
「された、ってことは、リュウからしたわけじゃないのね?」
「そうさ、分かってくれるか? 実はミヤとは同じプロダクションなんだけど…、えーっと……その…」
急に口ごもり、なぜか落ち着かない様子でモゾモゾとヘアバンドの位置を直す龍。その姿に妙な違和感を覚えると、樹里は更に強い口調になった。
「同じで、なに?」
「あー…、ごめん。詳しく話すと長くなるから省略するけど…。と、とにかく長い付き合いなんだ。ずっと好意を持たれていてたのは気づいてたけど、あんなところでキスされるとはね」
うまく誤魔化された気もしていたが、とにかく今は先の話の方が気になって仕方ない。
「それを写真に撮られたの?」
「そうだ。うかつだったよ」
「そうだったの…」
そんな瞬間まで記者に追いかけ廻されるとは −。樹里は改めてこの世界の恐しさに身を震わせた。
「でも写真を撮られたことにすぐに気づいたんだ。だからタクシーを捕まえてミヤをマンションに送り届けたら俺はすぐに退散した」
「それだけ? その後はどうなの? ミヤさんとは何もないの?」
「何もない、本当だ。…ああ、やけに喉が渇くな」
一気に言い訳をしまくった龍は、冷蔵庫に向かうとミネラルウォーターのペットボトルを2本取り出した。一本を樹里に渡すと、自分が持っている方のボトルのキャップを…、
− あ…? −
右手でペットボトルを持ち、左手でキャップを開けるのを目の当たりにしてしまった。
− リュウ、絶対に嘘ついてる…! −