ピエモンテの風に抱かれて

「していたのは…」



またしても数秒の間があった。これも視聴率を少しでも上げる作戦なのだろうか?



すると張り詰めた空気をゆるめるかのように、龍はニコッと微笑んだ。



「演技の稽古をしていただけなんですよ」





− え? −





「私たち役者というのは演技をしだすと、いつでもどこでも役になりきってしまうんです。あの時も、同じミュージカルに出演している彼女と演技の話に夢中になっている内にそうなったただけなんです」




− 演技、稽古…? そうよ、そうだわ! −




その時樹里は龍の言葉に信憑性を感じて、目の前がパアッと明るくなった気がした。昔、劇団の女の子と腕を組んで見つめ合っていたのを思い出したのだ。

あの時彼は、納得がいくまで練習に練習を重ねると言っていた。

あの頃の舞台への情熱が変わっていなければ、無きにしもあらずな話なのである。



そう信じたかった。



昔の彼のままでいてほしかった −。



しかし次の瞬間、そんな想いを一瞬にして消してしまう出来事が起きてしまうとは −。




− あ…? −



















− リュウ、嘘…ついて…る? −

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