ピエモンテの風に抱かれて
静かなエンジン音をした黒の高級車がやって来ると、さっきまでの雑然とした空気が一掃され、辺りがシーンと静まり返った。皆が息をひそめるようにして、最後の一人を迎えようとしていたのだ。
その沈黙の中では、樹里も固唾を呑んで見つめるしかなかった。
楽屋口のドアが手前に開く −。
すると他にも出演者が残っていたのだろうか? 出てきたのは龍ではなく、タータンチェックのミニスカート姿が一目で高校生だとわかる背の高い女の子だった。胸に抱えた大きな花束で顔がよく見えなかったが、彼女は一目散に車に乗り込んでいった。
− あれ? あの子、どこかで……? −
何となく見覚えがある少女に気を取られたのも束の間…、
もう一度ドアがゆっくりと動いた。