ピエモンテの風に抱かれて
割れたワイン
「大丈夫ですか? 怪我しませんでしたか?」
そこには片膝をついて心配そうに樹里の顔を覗き込む龍がいた。
「リュウ…」
樹里はすがるようにして龍を真っすぐ見つめたが、一瞬にして彼の表情が曇るのが分かった。
「…ジュ……?」
二人の視線が重なる。思わぬハプニングで、こんな再会を果たそうとは −。樹里の胸は一気に熱くなった。
− どうしよう、何か言わなきゃ、何か……! −
しかし彼はそのまま目をそらしてスクッと立ち上がると…、
− え? −
その表情は冷たく、とても冷たく見えた。
「待っ…」
昔と変わらない亜麻色の髪をなびかせながら、彼は足早に車に向かう。
バタンと閉められた車のドア。ゆっくりと動き出す車輪。
− どうして? わたしに気づいたのに…? −
それはあまりにも残酷な再会だった。
龍に完全に無視された樹里は、その場を動くことができなくなっていた。