片恋綴
真宏が千歳を送るというので、俺が美春を送ることになった。

美春は一人で帰ると言ったが、一人で帰したりしたら結城にどんな罵詈雑言を浴びせられるかわかったものではない。そう言うと、美春はわらながら、それもそうですね、と返してきた。

すっかり暗くなった夜道を二人で並んで歩く。

かつ、という美春のパンプスの音が夜空に響く。

「好きな相手とは?」

沈黙が続くのも、と思って訊く。すると美春は小さく笑った。

「向こう、好きな人がいるから、結局無理なんです」

望みがなさそうに思えていたのはそういうことか。けれど今日、食事に行くことになった、と嬉しそうに報告してきたはずだ。

それを訊くと、美春は首を横に振った。

「多分、振られるんです。その為に会ってくれるんです」

美春の声は少し悲しそうで、不意にその肩に手を伸ばし掛けたがやめた。理性が勝ったのかもしれない。

そうか、と返すと、はい、と答える。

静かな会話が続き、ついには言葉をなくす。

何故、こんなふうに誰かを好きになるのは楽しいことばかりではないのか。そんなことをこの年になって思う。

恋愛の酸いも甘いも知ってきたつもりでいたが、そうではなかったようだ。いや、知ってはいるのだが、それは幾つになっても堪えるものなのだと思う。



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