片恋綴
「振られたからって、店に来なくなるのはなしね。美春ちゃんは大切なお客様だし、何より君の髪を触るのが好きなのは本当だから」

帰り際、永久さんに言われ、私は笑顔で頷いた。

例え想いが届かなくても、永久さんに髪を触ってもらうのは好きなままだ。

いつか、胸が高鳴ることはなくなっても、心地好く思える日は来るだろう。

こんなふうに二人で会うのは最初で最後なのだろうが、それに私の胸が疼くことはなかった。

振られてすっきりしたのとは違うが、心は落ち着いた。

振られたくらいで好きでなくなるなら、そんなに楽なことはないのだろうが、こうしてまだ余韻が残るは本当に好きだったから。

その余韻もまた、悪くはない。

いつかこの気持ちがなくなるとしても、必死で誰かを想ったことは消えはしないから。

「ありがとうございました」

駅前で私は永久さんに深く頭を下げた。

「こちらこそ」

永久さんがそう言ってくれのが擽ったかった。



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