片恋綴
「綺麗な黒髪ですね。僕、黒髪、好きなんですよね」

新規の客に柔らかい声で言う。

この子は美春ちゃんの知り合いで、千歳さん、というそうだ。

「別にポリシーがあるわけじゃないんですけど、私の性格だと茶髪とか似合わない気がして」

千歳さんは苦笑しながら言った。

「そんなことはないと思いますよ?でも、染めないなら染めないほうが素敵だと思いますけどね」

別に他意や本心なんてない。ただ、客が喜ぶようなことを言う。まるでホストみたいだと思うが、ホスト同様、美容師なんて指名を取ったもん勝ちだ。

幸い、僕は美容師としてのセンスもいいほうなので、指名は多い。

千歳さんは少しだけ頬を染めて、なら、このままでいようかな、と言った。

実際、こんなことばかり言うものだから客に告白されたりもする。先日もあった。

美春ちゃんとは何か、いい関係にはなれそうだけど、他の客は振った時点で客でなくなる。

女遊びはするが、決して客には手を出さない。そんな営業までして客を繋ぐのは美容師として有り得ないとわかっているから。


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