あなたのギャップにやられています

「えっと……主人にかしら?」


その一言は私を地獄に突き落とした。

主人? 主人……ってことは……。
確かに表札は彼の名字だ。


気がつけば、彼の部屋に来たのはもう1年半も前のこと。
彼は、当時実家を離れてひとり暮らしだった私の部屋にばかり来ていたから。

その間に?


「すみません。お部屋を間違えたみたいで」

「あはは。そうなんですか。どなたのお部屋をお探しかしら?」

「いえ、大丈夫です」


綺麗にお化粧を施して、爪には目立たない程度のジェルネイル。
髪は緩く内巻きにされて、微かに香るのは柑橘系のさわやかな香水だろう。

やっと大学を出たばかりの私とは違って、余裕のある立ち居振る舞いに、上品な言い回し。


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