あなたのギャップにやられています

「でも、冴子がいいって目を輝かせて言ってくれたとき、俺、気がついたんだ。
誰かひとりでいい。俺の絵を好きでいてくれる人がいるなら、描き続ければいいってね」


私にもう一度絵を返しながらそう言う彼は、ハンドルを握って前を見据えた。



「俺、好きだった絵が嫌いになりかけてたんだ。
誰にも認められない屈辱と敗北感でいっぱいで。
でも、冴子が認めてくれた瞬間、力が抜けて……やっぱりやめられないって思って」

「木崎君……」

「だから感謝してる」

「こ、こちらこそ」


こんなに素敵な絵を描く画家がひとりいなくなるところだったのか……。
お世辞ではなくごく自然に出た言葉だったけれど、彼にそれを伝えてよかったと思った。

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