蕾は未だに咲かないⅠ



――その日は雨が降っていた。


「明津ちゃん」


優しいような、さして気遣わないような微妙な立ち位置の声が後ろから投げられた。

あたしは雨の打ち付ける窓の向こう側、中庭をしっかり目に焼き付けて、襖を閉める。

視界からそれらの景色が閉ざされ、室内に暗さが戻る。


「輔さん」


輔さんは今日も変わらず、垂れ目を優しく微笑ませていた。

日向君とは全く違う、底冷えするような空気の凍結感を味わった。


< 35 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop