夜香花
「千代嬢はまた、頭領のところに通い出したか。全くあの娘も、可愛いもんじゃ」

 自分の分の白湯を器に注ぎ、穏やかに言う長老を、深成は、じ、と見た。
 そんな深成に、長老は笑みを向ける。

「あ奴は昔から、頭領一筋じゃ。初物狩りの相手が頭領でなかったときなど、泣いて泣いて大変じゃった。それからしばらく、頭領から離れなかったぐらいじゃ」

「……真砂が、よくそんなこと許したね」

 真砂の冷徹さからいけば、どんなに千代が泣き喚こうが、容赦なく突き放しそうだが。

「さぁのぅ。まぁ頭領のことじゃて、さして相手にもしなかったじゃろ。思えば千代の頭領に対する積極的な接し方は、その頃に鍛えられたのかもしれんな」

 確かにあの真砂に、あそこまで踏み込めるのは千代だけのようだ。
 あきたちも、そんなことを言っていた。
 実際あきなど、真砂にちょっと冷たくされただけで萎縮してしまっている。

「でも……。千代はそんなに真砂が好きなのに、何で他の人とも躊躇いなく関係を持つの?」

「乱破の女子は、それこそ相手を選んではおれん。女技を使うときは、相手は選べんからの。乱破たちは、そんなことは当たり前のことじゃよ。だから里の女子は、里の誰にでも身体を許すのじゃ」

 真砂と同じようなことを言う。
 深成は両手で白湯の器を持って、膝を抱えた。
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