夜香花
「わらわは……そんなこと嫌だ」

 乱破でなくても、この時代の女子というのは、好いた相手と結ばれることなど、ほとんどない。
 姫君だって、政略結婚で好きでもない男に嫁ぐ。
 深成の言うことなど、単なる我が儘でしかないのかもしれない。

「頭領でもか?」

 長老が、静かに問うた。
 深成は顔を上げ、訝しげな表情になる。

「何で真砂?」

「お前さん、ずっと頭領とあるではないか。頭領は里の娘らの憧れぞ?」

 またか、と深成は顔を膝に埋めた。
 真砂がこの里での憧れの存在だなど、もう聞き飽きた。

「わらわが真砂のところにいるのは、そこしか行くところがないから。それでも真砂は優しくないし、わらわにとっては憧れでも何でもないよ。乱破としては、確かに凄いって思うけど、さっきみたいに、わらわの目の前で、平気で……」

 そこまで言った深成の目から、またぼろ、と涙が落ちる。

「大体真砂、わらわを気にしなさすぎ! いくら何でも、わらわの目の前で始めることないじゃんっ! ちょっとは気を遣えっての! 恥ずかしくないの?」

 ぼろぼろと涙を流しながら、深成はまるで目の前に真砂がいるかのように、ばん、と床を叩いて訴えた。

「まぁ……。まだまだ子供のお前さんには、いろいろ衝撃だったじゃろうが。いたたまれなくなって飛び出してくるのもわかるが、何故泣くのじゃ?」

「……」
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