夜香花
「追い出された形になったからか?」

 静かに聞く長老に、深成はふるふると首を振る。

「別に真砂は、わらわを追い出そうと思って、ああいうことをしたんじゃないもん。追い出そうと思えば、もっと簡単にわらわなんてつまみ出せるでしょ」

「そうじゃな。大体、お前さんが頭領のところに居着いたのは、昨日今日ではないしの。本気でつまみ出そうと思ったら、あの頭領のことじゃて、もっとさっさと放り出しておる」

 こくり、と頷く深成は、ぐし、と拳で涙を拭った。

「何がお前さんは、そんなに悲しいのじゃ?」

 改めて問われ、深成は考えた。
 そういえば、何で涙が出るのだろう。

「……わかんないけど。何か……あまりに真砂が、わらわをいないものとして扱うから」

 今までだって、別に相手にしてくれていたわけじゃないといえばそうなのだが、ここまで存在を無視されたこともないような気がする。
 何となくさっきは、完全に深成の存在自体を否定されたようで、それが非常に悲しかったのだ。

「存在も何も。お前さんのことは、まだまだ里の者も知らぬぞ?」

「他の人はそうだろうけど。真砂は初めっから、ずっと一緒にいるのに……」

 またぐし、と拳で涙を拭いつつ言う深成に、長老は表情を和らげた。

「お前さん、すっかり頭領に懐いておるのじゃな」

「んなっ! 何でそうなんのっ。あんな鬼畜に、わらわが何で懐くのさっ」

 即座に深成は否定する。
 どう甘く見ても、真砂には深成が懐く要素などない。
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