夜香花
 思わぬ言葉に、深成は衝撃を受けた。
 温厚なこの長老から出る言葉とも思えない。

 だが長く乱破として生きてきた長老は、それこそ幾度もそういう場面を見てきたのだろう。
 だからこそ、深成の考えは素晴らしい、とは言うものの、それはあくまで理想論である、と言いたいのだ。

「頭領は、躊躇いなく、それが出来るお人じゃ」

 ぽつりと言う。

「必要以上に里の者とつるまないのも、指令時に自ら指揮を執らないのも、下手に人に絡むと、情が産まれるからじゃ。ずっと一人でおる故、周りの人間が窮地に陥っても、気にせずおれる。親しくないから、どうでもいいのじゃ」

「真砂はさ……」

 膝を抱えて小さくなった深成が、長老を見ながら口を挟んだ。

「何でそんなに、人との交流を断つの? あんなに皆に慕われているのに。普通は一党の頭領になれるなんて、嬉しいことじゃないの? いくら親しくなって、そういう窮地に陥ったって、真砂の指揮能力なら、それこそ皆を無事に助けることだって可能じゃない? 自分が何で皆に頭領と言われてるのかも、わかってるって言ってたじゃん。なのに何であんなに頑なに、皆に心を開かないの?」

「……頭領はのぅ……。昔々に、心が壊れたのじゃ。同時に乱破としての、天才的な能力が開花した」

 火箸を囲炉裏の端に差し、長老は、よっこらしょ、と横になる。
 薄暗い部屋で、深成も横になった。
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