夜香花
---格好良いな……---

 自然にそう思い、はた、と我に返る。

---なっ何考えてんのっ! わらわともあろう者が、こ、こんな男に見惚れるなんて!---

 慌てて先の気持ちを打ち消した深成は、やっと真砂が己を見ていることに気づいた。
 どうやら動揺したお陰で、気を乱してしまったらしい。

「ああ……起きちゃった」

 僅かでも気を乱せば、あっという間に伝わるのはわかっていたのに、深成は残念そうに呟いた。
 が、真砂は寝転んだまま、相変わらず深成を凝視している。
 今まで見たこともない、心底驚いたような顔だ。

「……どうしたのさ」

 こんな表情も初めて見たな~、と、呑気に思いながら言う深成にも、真砂はしばらく反応しないで固まっていた。
 やがて、ようやっと真砂の口が動く。

「……俺……寝てたのか」

「……そりゃ、まだ早いもの。里の皆も、寝てるんじゃない?」

 訝しげに言う深成だったが、真砂は上体を起こすと、片手で頭を抱えた。
 どうしたのかと、深成は首を傾げながらも、くいくいと真砂の袖を引っ張った。

「ねぇねぇ。川に行こうよ」

「……はぁ?」
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