夜香花
 黙っている深成に確信を得たように、千代は、ふんと盛大に鼻を鳴らした。

「違うとでも言うのかい? そうでもなきゃ、真砂様がこんな大怪我負うわけないだろ」

 ぐ、と捨吉も押し黙る。
 だが、散らばった食材を拾い集めながら、捨吉は反論した。

「それはそうです。でも千代姐さん。頭領が、そういう行動をしたことが、どういうことかわかってますか?」

「……何だって?」

 訝しげな顔を向ける千代に、捨吉はまとめた食材を脇に置き、転がったままの深成を助け起こしながら続けた。

「本気で邪魔だと思ってたら、頭領は深成など、簡単に見捨ててます。大怪我してまで、深成を救ったんですよ。深成が大事だからに決まってるじゃないですか」

「なっ……」

 千代の目が、大きく見開かれた。
 その後ろで、真砂がちらりと捨吉を見る。

「この子は、どっかの間者でもない。忍びでもない、ただの子供ですよ。ただ子犬のように、頭領を慕っている。打算や邪心がなければ、頭領だって付き合いやすいでしょう」

 大丈夫かい? と言いつつ、捨吉は深成を起こした。
 その瞬間、深成の目から涙が落ちる。
 えぐえぐと頬を押さえて泣きじゃくる深成を宥めながら、身体についた砂を払い、捨吉は深成を真砂のほうへと促した。

「ほら。お前しか、頭領のお世話は出来ないんだ」

 そう言われ、深成は泣きながらも、捨吉の集めてくれた枯れ木を組み、枯れ葉を入れる。
 捨吉がそこに火を付けた。
< 449 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop