夜香花
第三十四章
「真砂様」

 深成が去って、しばらくしてから、千代が口を開いた。

「……あの娘、どうするんですの」

 本当は、もっと別のことが気になっている千代だ。
 真砂は、深成をどう思っているのか。
 捨吉の言ったことは本当か。

 真砂が他人を、ましてあのような子供を大事に想うわけはないと、誰より昔から真砂を見ている千代は、確信にも似た思いを持っている。

 だが、何故先程の捨吉の言葉に、真砂は何も言わなかったのか。
 反論するどころか、表情も動かなかった。

 嫌な顔も、しなかったのだ。
 今までの真砂だったら、即座に眉間に皺が刻まれたはずだ。

 だが今、それを聞いたところで、真砂は答えないだろう。

「この戦は、あの娘が引き起こしたといってもいいものでしょう? だとすると、このままここにあの娘を置いておけば、また同じようなことが起こるのではないですか?」

 聞きたくて仕方ない、真砂の心は置いておいて、あくまで党全体のこととして意見を仰ぐ。
 真砂は小さく、そうだな、と呟いただけで、特に何も言わない。

 千代は、じっと真砂を見つめた。
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