ペテン死のオーケストラ
「分かったわ。なら、私と協力して元気な赤ちゃんを産みましょう」

産婆は優しくマートルに言います。

マートルは、産婆の声に胸が熱くなります。

「…、はい。協力して下さい」

マートルが1番望んでいた協力者が見つかりました。
それも、かなり有力な協力者。
マートルは、少しだけ勇気が出てきます。

赤ちゃんを望んでくれる人物が一人でもいたことに。

その後は、赤ちゃんとは無関係の話しをしました。


マートルは素直に全てを話します。
誰かに聞いて欲しかったのです。


家族から見捨てられた事。

主人とは、まだ籍を入れていない事。

新聞を縛る仕事をしている事。

マートルは思いっきり話します。
自分の心の中を全て、産婆に見せたのです。
それが必要な事だと感じたから。

産婆は静かに話しを聞いてくれます。
マートルは涙を流して話し続けました。


「この子には元気に産まれてきてほしいの。私の大切な赤ちゃんだもの」

「そうね。出産は12月頃ですよ。マートルさん、赤ちゃんにはどんな風に育ってほしい?」

「元気ならそれで良いわ。元気で強い子供であってほしいの。そしたら、夢だって何だって叶うでしょ?」

「そうね。元気な子供ならたくさんの夢を持つでしょうね」

「はい。マルメロには夢を叶える力を持ってほしいの」

「マルメロ?赤ちゃんの名前?」

「はい。この子は私を魅了してくれたの。きっと魅力に溢れた子よ。それから、私と同じ頭文字をつけたくてマルメロと名付けたの。素敵な名前でしょ?」

「素敵だわ。元気で魅力的か…。ふふ、確かに。どんな夢でも叶えられるわね」

「ええ!私の大切なマルメロよ」


マートルは嬉しくなります。
自分の子供を初めて認めてもらえたからです。
母になる喜びを感じた日でした。
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