Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~
男の子はまだ5歳くらいの幼児だ。

そんな小さい子が、大きく見開いた瞳でロイを見上げて叫ぶように言った。

「ニックお兄ちゃんを虐めないで!」

ロイはその子の姿に言葉を失った。

その子の広げる両手は微かに震え、大きな瞳に涙を浮かべている。

よほどの勇気を奮って来たに違いない。


部屋の扉から男の子を追うように一人の女性が姿を現した。

既にローグの放った炎の壁は威力を失って、ほとんど鎮火に近い状態だ。

焦げた石畳から燻されて上がる黒い煙が揺らいでいた。

女性は男の子の姿を認めると、大きく驚いた表情を浮かべた。

そして、すぐに駆け寄り、男の子を抱きしめる。


何が起きているのか分からない。

頭で理解できない状態だった。

女性はどう見ても同族団の一員には思えない華奢な身体つきで、どうしてこんな場所にいるのかという疑問が湧く。

更にはこの子供は何なのか。

真意を確かめたい気持ちで、ロイはニックとジャンを振り返った。

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