キズだらけのぼくらは


なにか言葉をかけようと思うのに、言葉が出てこない。

そのキズには、彼女自身の葛藤がつまっているんだ。

私みたいに復讐しようとする捻じ曲がった心じゃなくて、真正面から向き合う正しい想いが。

「もっと……うまく生きればいいのに……」

俯いた私は小声でつぶやいた。

結愛は、正し過ぎて間違っている。

この世じゃ、正しいことが正解じゃない。

人の心の中には善も悪も存在していて、みんなの心はシーソーみたいに不安定に揺れている。

その場に応じて善に傾くこともあれば、悪に傾くこともある。

だけど、結愛みたいに善に傾きっぱなしでは損をするの、キズつけられるの。

ずっと悪に傾いている秋穂みたいな人間の方が、よっぽど得なんだ。

この世はそんな風にできている。

悪の方が圧倒的に強い。

善が勝つなんて、ヒーローものの物語の中だけ。

だから私はそれを知りながら、善人であろうとすることなんてできないの。

結愛だって、もっと要領よく生きるべきなんだよ。


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