優しい爪先立ちのしかた

今春、嶺に連れられて家に来た。
梅雨に怒られた。
夏には一緒に家に帰って、自分のことを聞いてくれた。
弟が出来たということに、自分より怒った梢。


「ずっと一緒に居るって、言ってくれたひとなんです」


その言葉が頭から抜けない。
式鯉は泣きそうな栄生の表情を見て、謝らないといけないと思った。

「じゃあ今度、その方に話を伺うことにする。あと、氷室さんに謝らなきゃと思って」

「はい?」

「夏の面談の時に、昔の私に似てるって言って、ごめんなさいね」

きょとんとする顔にもう悲しさはない。勿論、栄生はそのことを覚えていたが、『似ている』と言われたことに関して思うことはなかった。

『嫌いだ』と言われて、悲しかったのだ。



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