優しい爪先立ちのしかた

先日降った雨の所為か、茶色い髪が濡れている。嶺と同年代のようなその男は、ピクリと眉を動かして、ぼんやりと空を見つめていた。

こんな田舎に不良。しかも負け戦だったのか、顔も体もボコボコ。

死ななかっただけ良かったんじゃないか、と冷ややかに思いながらも栄生は嶺に連絡したのだ。

まさか、本家の裏で働いている人間だとは知らずに。




「あ……!」

小さな悲鳴をあげた呉葉が縁側で足を滑らせるのと、栄生が放った火が消されたのは同時だった。

栄生が呉葉を抱きとめるより前に、腕が伸ばされた。

「なんで、こんなこと……」

呉葉を助けたのは尾形だったが、声を出したのは水を持ってきた人間。

青いバケツはビニール製で、少し燃えただけで辺りがビニール臭くなっている。



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