優しい爪先立ちのしかた

きょとんとした顔をした栄生は曖昧な笑顔を作る。

それはどうも。

自分で作っているつもりはないが、それをこの人に言わせてしまったのなら申し訳なく思う。

自分の欲の為に利用させて頂いているのだから。

車だからか、アルコールはいれない先輩の姿を見て、この人は真面目なのだと今更ながら感じた。

ここ何日か一緒に居たのに、そんなことにも気づかなかった。

梢は几帳面だけどなんか抜けてる。

あ、梢。

「さっきから携帯鳴ってるけど、ハナちゃん」

「すみません、出て」

「それって無視してるって受け取って良いの?」

空いていた左手を握られる。

前言撤回。こいつは真面目ぶって挫折したチャラ男だ。

「ええ、勿論」

携帯に触れていた右手を離す。

同じだ、自分も、この男も。



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