優しい爪先立ちのしかた
「あ、いえ。あれ、栄生ちゃんから連絡きてないですか?」
「はい」
何を慌てているのか。泳いだ目を梢は見逃さなかった。
「繁華街の方に居るかなー…なんて」
「繁華街?」
熱とも、カナンと一緒に居ることとも、当てはまらない。
それから、この前カナンに言われた言葉が脳裏に蘇った。
『梅雨だけは、違いますから』
「ありがとうございます」
会釈程度に頭を下げて、梢は繁華街の方へ足を進める。暗かった足元が、明るくなり始めた。
手を組んで、繁華街を歩くのは初めてじゃない。
田舎なのであまり人も多くない。それに今日は平日。
「ハナちゃんもさ、この街から出ようよ」
ラブホの通りに入って、先輩が言った。助手席から見るネオンは綺麗だ。