優しい爪先立ちのしかた
車が停まる。栄生は返事をしないで車から出た。
再度腕を組んで栄生はにこりと笑う。
「やっぱり出たくない?」
「出るつもり、無いですから」
「ここ居心地良いもんね。入り浸っちゃう感じ分かるけど」
苦笑、という感じで、先輩が笑う。
その笑い方が気にくわない。栄生は腕を離した。
部屋を選んでいる先輩は、それには気付かない。
「でも、外に出てみればいろいろ分かることもあるよ?」
「私はここでしか生きていけないから」
携帯のバイブ音が響く。
「大袈裟でしょ。あ、ここで良い?」
この街で成功しなかったから出ていった先輩。可哀想な彼は、結局ここに帰ってきてしまった。
「もしもし」
『栄生さん、今誰と居るのか言ってください』
「うん? 先輩」