優しい爪先立ちのしかた

何のことはない。栄生は冷静に答えた。

梢は沈黙の後、

『その人とのご関係は。答え次第で、出ていきますが』

「隣街から帰ってきちゃった先輩。てゆーか、出ていくってどこから…」

家か?

栄生は先輩を見た。急に電話に出たので驚いたのか、顔が固まっている。

「あ、すいません。ちょっと大型犬から電話だったもので」

「ちゃんと血統書つきのゴールデンレトリバーだって紹介してください」

栄生は「は?」と眉を寄せて振り返った。

スーツ姿でしかもこんなところに一人で入るとは、なんという勇気だろうか。

「なにしに来たの?」

「帰りますよ。また明日の体調に差しさわります」

「関係ないでしょう。一人で帰れ馬鹿犬」

「引き摺ってでも帰ります」

梢はしっかり栄生の二の腕を掴んでいた。



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