優しい爪先立ちのしかた
帰らない。帰ります。梢が一人で帰れば良い。栄生さん、我が儘ばかり言ってるならいい加減怒りますよ。
そんな攻防戦が続いた。
「なんか言ってください先輩」
我が儘だというのは認めているのか、栄生はばつが悪そうに先輩の方を向いた。
ぽかんとしている彼は、まるで火の粉が自分の方に飛ばぬように掌を栄生たちに向けている。あー…と言いにくそうに口を開く。
「…だれ?」
「だから、梢」
「彼氏?」
「違いますけど、一緒に住んでます」
口を出すな、と栄生が梢を睨む。
こんな田舎で明るい髪色。未だ喧嘩の傷は治らず、普通のサイズの絆創膏が頬に貼られている。
見てくれと迫力だけは、そこらのモデルよりある。
梢は栄生の見ていない一瞬だけ先輩を威嚇すると、苦笑いをして、栄生の肩に触れた。
「一緒にご飯食べられて楽しかった、ありがとう」
「先輩?」