優しい爪先立ちのしかた
なんだその退散するみたいな言い方は。
嫌な予感がした。
栄生の予感は、何より当たる。
「ハナちゃん、幸せになってね」
絶望的な気持ちになった。
幸せ、に?
先輩は栄生の歪む顔を見る前に、二人の横を通り過ぎる。梢の掴む手に力は入っていなかったが、栄生は動かなかった。
「…栄生さん」
「もう逃げないから、離してよ」
静かな声にやりすぎた感が体を巡る。梢は栄生から手を離した、瞬間。
先輩が最初に聞いた部屋のボタンをサッと押して、フロントから鍵を貰った。一部始終を見ていた彼女は、何事もなかったような顔をしている。
呆気に取られている場合ではない。
スタスタと部屋へ向かう栄生を追いかける梢と扉が閉まる直前に滑りこんだ。
「…なんかすごく最悪な気分。今梢見てると噛みつきたくなるんだけど」