幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
奈帆子が寝付くまで、礼太はそばで手を握っていた。


奈帆子がそうしてくれと言ったから。


希皿たちは礼太が出てくるまで、部屋の外でずっと待ってくれていた。


なぜか雪政もいる。。


「奥さんじゃなくて、奈帆子さんだったんだ」


珍しく真剣はトーンでそうのたまうと、雪政はにぃっと礼太に笑いかけた。


「おつかれぇ、大活躍だったんでしょ?」


「え?いや、僕は何も……」


「嘘つけ」


そう言ったのは希皿だった。


深海を思わせる瞳に、なんとも言えない色が揺れる。


「あんな簡単に生き霊を自覚させる退魔師は初めて見た」

「……僕、退魔師じゃない」

「でも、奈帆子を助けたのはあんただ。立派に退魔したよ、あんたは」

「あれは……」


助けを求めるように兄弟を見れば、二人の目にも、困惑がぐるぐると渦巻いていた。


華澄と聖にこんな目で見られたことのなかった礼太は、こくりと息をのんだ。


「……僕でも無理だ」


聖が小さな声で、ぽつりと言った。


「あんなに静かで、すみやかで、痛みを感じさせない誘導は、僕にも出来ないよ」


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