幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
「ごめんなさい、でも、本当は奈帆子さんもなんとなくわかってるんじゃないかなと思って………旦那さんの首を締める幽霊の正体」
奈帆子は俯いた。
瞳にうっすらと涙の膜が揺れている。
礼太は慌てた。
違う、泣かせたかったわけではない。
「知ったような口聞いてごめんなさいっ。僕が言いたいのは、えっと」
わたわたと泡を吹きそうな自分の後ろで、兄弟たちがこれは割って入った方がいいのだろうかと悩んでいるに違いない。
頭の隅っこの冷静な部分が躊躇ってないで言っちまえ、と叫んだ。
「奈帆子さん、一度ご両親と離れて暮らした方が良いんじゃないかなぁって」
華女に少し似通った綺麗な顔に困惑の色が深くなる。
「……は?」
自分でも違和感を覚えるほどのいきなりのハイテンションで礼太はとうとうと述べた。
「奈帆子さん、今までご両親を中心に人生を築いてきたでしょう?お父さんの望むように画家になって、お母さんが淋しがるから大学も家から通えるところにした。ここらで一回人生切り替えて、自分のためだけに生きてみるのもありなんじゃないかなぁって」
なんでこんな素っ頓狂な声しかでないんだと自分を恨めしく思いながら、奈帆子が口を開くのを待った。
「……あんたさぁ」
「はい」
「なんであたしが画家だの、大学家から通ってただの知ってるわけ?わざわざパパに聞いたの」
「……は、い」
「それにさっきの質問群、やけにあたしの人生の核心をついてた……」
奈帆子はここでいったん言葉を切った。
冷たい視線で睨みすえられ、礼太は縮み上がったが、まだ少し潤んだ瞳には、小さく茶目っ気が光っていた。
「……見たわね?」
「……へ?はい?」
「あーあ、もう、見ちゃったのね。まったく、大人の女性に興味持つのはあと十年早いわよ、坊や」
見た?まさか妖霊を通して礼太が奈帆子の人生を垣間見たことを知っているのだろうか?それとも日記をつけてるとか?
ハテナで頭の中が埋め尽くされた礼太は眉の間に皺をつくって唸った。
奈帆子はそんな礼太を愉快げに一瞥した後、うーん、と大きく伸びをした。
そして、ふわり、と微笑する。
「……あんたの言いたいこと、なんとなく分かったよ。」
ベッドの上に体育座りした奈帆子は、ひどく子供っぽかった。
こんなこと言うと怒られそうだが、まるで、小学生だ。
「年寄り二人、置き去りにすんのは心配だし、ママは今あんなだし……でも、仕方ないんだよね」
彼女は今度こそ、静かに泣き始めた。
「………あたしは、家族殺しになんか、なりたくないもの」
礼太は息をのんで、小さくうなづいた。
「大丈夫です。奈帆子さんは、優しい人だから」
「……脈絡ないわね、なんで優しい人は大丈夫なのよ」
くすっと笑った瞬間、大粒の涙が宙を舞った。
悲しむ奈帆子を見るのはつらいけど。
彼女は自覚した。
自分が父の首を締める幽霊の正体だと。
おそらく、奈帆子が生き霊となることはもうないだろう。
奈帆子は俯いた。
瞳にうっすらと涙の膜が揺れている。
礼太は慌てた。
違う、泣かせたかったわけではない。
「知ったような口聞いてごめんなさいっ。僕が言いたいのは、えっと」
わたわたと泡を吹きそうな自分の後ろで、兄弟たちがこれは割って入った方がいいのだろうかと悩んでいるに違いない。
頭の隅っこの冷静な部分が躊躇ってないで言っちまえ、と叫んだ。
「奈帆子さん、一度ご両親と離れて暮らした方が良いんじゃないかなぁって」
華女に少し似通った綺麗な顔に困惑の色が深くなる。
「……は?」
自分でも違和感を覚えるほどのいきなりのハイテンションで礼太はとうとうと述べた。
「奈帆子さん、今までご両親を中心に人生を築いてきたでしょう?お父さんの望むように画家になって、お母さんが淋しがるから大学も家から通えるところにした。ここらで一回人生切り替えて、自分のためだけに生きてみるのもありなんじゃないかなぁって」
なんでこんな素っ頓狂な声しかでないんだと自分を恨めしく思いながら、奈帆子が口を開くのを待った。
「……あんたさぁ」
「はい」
「なんであたしが画家だの、大学家から通ってただの知ってるわけ?わざわざパパに聞いたの」
「……は、い」
「それにさっきの質問群、やけにあたしの人生の核心をついてた……」
奈帆子はここでいったん言葉を切った。
冷たい視線で睨みすえられ、礼太は縮み上がったが、まだ少し潤んだ瞳には、小さく茶目っ気が光っていた。
「……見たわね?」
「……へ?はい?」
「あーあ、もう、見ちゃったのね。まったく、大人の女性に興味持つのはあと十年早いわよ、坊や」
見た?まさか妖霊を通して礼太が奈帆子の人生を垣間見たことを知っているのだろうか?それとも日記をつけてるとか?
ハテナで頭の中が埋め尽くされた礼太は眉の間に皺をつくって唸った。
奈帆子はそんな礼太を愉快げに一瞥した後、うーん、と大きく伸びをした。
そして、ふわり、と微笑する。
「……あんたの言いたいこと、なんとなく分かったよ。」
ベッドの上に体育座りした奈帆子は、ひどく子供っぽかった。
こんなこと言うと怒られそうだが、まるで、小学生だ。
「年寄り二人、置き去りにすんのは心配だし、ママは今あんなだし……でも、仕方ないんだよね」
彼女は今度こそ、静かに泣き始めた。
「………あたしは、家族殺しになんか、なりたくないもの」
礼太は息をのんで、小さくうなづいた。
「大丈夫です。奈帆子さんは、優しい人だから」
「……脈絡ないわね、なんで優しい人は大丈夫なのよ」
くすっと笑った瞬間、大粒の涙が宙を舞った。
悲しむ奈帆子を見るのはつらいけど。
彼女は自覚した。
自分が父の首を締める幽霊の正体だと。
おそらく、奈帆子が生き霊となることはもうないだろう。