幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
「とりあえずは、解決ね」


華澄が疲労の滲む声で言う声が、深夜の廊下に響いた。


「一番実害があったのが首締め幽霊だったわけだし、家鳴りはまず間違いなく隼人くんでしょう。………まだ、確認しとかなきゃならないことは残ってるけど」


「……なに?」


「殺された猫よ、頭おかしい人間の仕業とも考えられるし、もしかしたら奈帆子がやったのかもしれない。でも……万が一のことも考えて、調べておいた方が良い。」


華澄の言葉に、聖が真剣な顔でうなづいた。


「うん、血抜かれてたんだもんね、やっぱ、後から何かあったら遅いもの」


「……なんで?」


一人、会話にいまいちついて行けない礼太が首を傾げた。


「なんで、血を抜かれてたことにそんなにこだわるの?」


旦那さんにこの話を聞いた時も、二人の身体がやたら強張っていたことを覚えている。


「ああ、兄貴は知らないのね?あのね、妖霊と魔の違いは知ってるでしょ、魔の習性に血を………………聖?」


華澄が話すのを中断して末っ子の方を向いた。


いつの間にか歩くのをやめていた聖は、礼太たちより少し後ろにいた。


ぽぉっとした顔で、宙を見つめている。


どこか様子がおかしい。


「聖、どうしたの………聖‼」


突然、聖がこれまで来た通路を逆走し始めた。


「ちょっと待って!」


華澄と二人、慌ててあとを追いかけるが、距離が離れていた分、すぐには追いつけない。


「譲葉(ゆずりは)‼」


華澄が叫んだ。


(トイレ………じゃないよね)


どう考えても聖の様子はおかしかった。


(まさか、またなにか『憑いて』る?)

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