幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
この一ヶ月の間に、礼太が華澄と聖から学びとった知識によれば、妖と霊の決定的な違いは、その内に秘めるエネルギーの差であるらしい。


霊は存在としてはかなり弱い。


その存在の原動力は、すでにこの世にはない者の思いや意思。


それが強く保たれ続けることなど滅多にない。


つまり、たまには起こるということ。


あまりにも強い残留思念が、自然的な力と偶然に融合し、強力な存在となる。


それがまず一つ目の妖の種類であるらしい。


つまり、奥乃家の者の狩るべき対象の大半は、元人間というわけだ。


これを他の妖と区別する時は『妖霊』と呼ぶ。


もう一種類の方に関しては、この世ならざるもの、というにはかなり人間の主観が入りすぎている部分がある。


なぜならそれは、本来なら謎の生命体とでも言うべきものだからだ。


どこから来て、どこに去ってゆくのかも分からない。


意思があるのかないのか、そこの見解も曖昧だ。


ただそれは突如として人の前に現れ、災厄をもたらす。


華澄たちは、まだ一度もこの種類の妖には遭遇したことがないらしい。


奥乃家ではこの種類の妖を、他のあやかしの類と区別するために、『魔』という別称を使うことが多いと言う。


ただ、聖と華澄が言うには、『妖霊』にしろ『魔』にしろ、口で語れることは、そう多くはないらしい。


鬼火のような形で現れたり、動物や、時にはヒトの姿をとる妖もいると言う。

それぞれに特性があり、名称を細かく分類していくとキリがないようだ。


やはり、遭って見なければ分からない。


それも、礼太にとっては視えればの話だが。
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