幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
「話には聞いてたけどさぁ、礼太くんっておっとなしいのな。華澄の兄貴とはにわかに信じ難いわ」
朝川中学校に着いた早々、裕司に言われた言葉に、礼太は苦笑いするしかなかった。
「うん、そうなの。性別逆だったら良かったのにねってお母さんがよく言ってる」
どこか空元気な声で応えたのは聖だった。
華澄が多いに顔をしかめ、首を横にぶんぶんと振る。
「いいのよ、わたしはわたしで、兄貴は兄貴で。そういうの、前時代的だわ」
僕は華澄のようにはきはきものが言えるようになりたいけどな、と礼太は内心ぼやく。
「ここが朝川中か。結構でかいな。」
車内から校舎を見上げた裕司が感心するような声を上げた。
「一学年につき約240名の生徒、総勢723名よ。この辺の学校の中じゃ、一番大きいかもね。」
礼太はその大きさよりもむしろ新しさに驚いていた。
礼太の通う中学校は創立50年。
朝川中学校はもっと歴史が古いはずだが、おそらく近年建て替え工事でもしたのだろう。
クリーム色の壁が眩しい。
私立中学さながらのていをなしていた。
「綺麗な校舎だね」
礼太と同じことを思ったらしい聖がぽつりとつぶやいた。
「今見えてる校舎はね、つい最近建て替えられたから。でも、後ろに隠れてる二つの校舎はだいぶきてるわよ」
きてる、とは古いということだろうか。
「んでー、もう行っていいわけ?まだ生徒ちらほら見えるけど」
裕司が軽くあくびをしながら華澄に尋ねる。
「いいえ、まだよ。正門が閉まったら玄関まで来てください、だって」
礼太は窓ガラスの外を覗いた。
駐車場からだと門の周辺がよく見える。
日はあと数分で落ちるだろうが、部活が終わった後もしばらくたむろっていたとおぼしき生徒たちがまだ門をくぐっていた。
「聖、大丈夫?」
華澄がふと事務的な声で聖に尋ねた。
「うん、平気。思ってたより全然大丈夫だよ」
そう言った聖の顔は、しかし普段より青かった。
華澄は確か、聖の方が自分より敏感なのだと言っていた。
あたりやすい、とも。
妖の存在にそれだけ影響されてしまうということだろう。
詳しいことは分からないが、本人にしてみればあまり有難くない体質であることは分かる。
礼太ができることといえば、おずおずと背中を撫でてやることだけだった。
「ありがと、兄さん」
常々、天使のようだと評される笑顔で聖が礼を言ってくる。
「顔色だいぶ悪いよ。お茶、飲む?」
水筒を差し出すと、聖は一口飲んで再びにこりとした。
「あーあ、聖もにぶちんだったら良かったのにね、兄貴みたいに」
礼太はからかう華澄に向かって気づかれないように舌を出した。
余計なお世話だ。
朝川中学校に着いた早々、裕司に言われた言葉に、礼太は苦笑いするしかなかった。
「うん、そうなの。性別逆だったら良かったのにねってお母さんがよく言ってる」
どこか空元気な声で応えたのは聖だった。
華澄が多いに顔をしかめ、首を横にぶんぶんと振る。
「いいのよ、わたしはわたしで、兄貴は兄貴で。そういうの、前時代的だわ」
僕は華澄のようにはきはきものが言えるようになりたいけどな、と礼太は内心ぼやく。
「ここが朝川中か。結構でかいな。」
車内から校舎を見上げた裕司が感心するような声を上げた。
「一学年につき約240名の生徒、総勢723名よ。この辺の学校の中じゃ、一番大きいかもね。」
礼太はその大きさよりもむしろ新しさに驚いていた。
礼太の通う中学校は創立50年。
朝川中学校はもっと歴史が古いはずだが、おそらく近年建て替え工事でもしたのだろう。
クリーム色の壁が眩しい。
私立中学さながらのていをなしていた。
「綺麗な校舎だね」
礼太と同じことを思ったらしい聖がぽつりとつぶやいた。
「今見えてる校舎はね、つい最近建て替えられたから。でも、後ろに隠れてる二つの校舎はだいぶきてるわよ」
きてる、とは古いということだろうか。
「んでー、もう行っていいわけ?まだ生徒ちらほら見えるけど」
裕司が軽くあくびをしながら華澄に尋ねる。
「いいえ、まだよ。正門が閉まったら玄関まで来てください、だって」
礼太は窓ガラスの外を覗いた。
駐車場からだと門の周辺がよく見える。
日はあと数分で落ちるだろうが、部活が終わった後もしばらくたむろっていたとおぼしき生徒たちがまだ門をくぐっていた。
「聖、大丈夫?」
華澄がふと事務的な声で聖に尋ねた。
「うん、平気。思ってたより全然大丈夫だよ」
そう言った聖の顔は、しかし普段より青かった。
華澄は確か、聖の方が自分より敏感なのだと言っていた。
あたりやすい、とも。
妖の存在にそれだけ影響されてしまうということだろう。
詳しいことは分からないが、本人にしてみればあまり有難くない体質であることは分かる。
礼太ができることといえば、おずおずと背中を撫でてやることだけだった。
「ありがと、兄さん」
常々、天使のようだと評される笑顔で聖が礼を言ってくる。
「顔色だいぶ悪いよ。お茶、飲む?」
水筒を差し出すと、聖は一口飲んで再びにこりとした。
「あーあ、聖もにぶちんだったら良かったのにね、兄貴みたいに」
礼太はからかう華澄に向かって気づかれないように舌を出した。
余計なお世話だ。