幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
「俺のじいちゃんが君らのじいちゃんの弟なんだよ。さっき華澄が言ったようにはとこだな。でも、俺、本家に顔出すことはまずないから、知らなくても無理ねぇな」
奥乃 裕司は見た目に似つかわしくない安全運転をしながらそう言った。
なんでも彼は現在大学生で、若いながらに経験豊富な退魔師らしい。
退魔師を本業にする気はないが、卒業後も副業としては続けるのだとか。
「裕司兄さんには、僕と姉さんも何度か修行をつけてもらったんだ。僕たちが仕事をし始めてからも、人手が足りない時はこうやって助けてもらってるの。」
なんでも、今回の依頼の危険性を考えて、華澄が助力を求めたらしい。
「華澄と聖の頼みだしな。あの女の命令だったら死んでもやだけど」
のんびりとした口調の中にひっそりと織り込まれた毒に、礼太はびくりとした。
「あの女………?」
「そりゃ、当主様に決まってるだろ。麗しの華女さまだよ。あいつがいるから、俺は本家にはできるだけ近づかないようにしてる。」
礼太も今は華女に対してそんなにいい感情は持っていないが、少しむっとした。
空気が伝わったのか、裕司が笑い声をあげる。
「あはは、悪かったよ。礼太くんは華女様のお気に入りだったな。なんせ力がないのに妹と弟差し置いて『次期様』に選ばれるくらいだし」
「ちょっと、裕司兄さん、兄貴をいじめないでよっ」
華澄が助手席で本気で怒っている声を聞きながら、久しぶりに次期様という単語を聞いたな、とわき腹に痛みを感じた。
「わたしだって、華女さんは苦手よ。妙に達観してるっていうか、見下されてる感じがすごい嫌。でも、それと兄貴が当主に選ばれたのは関係ない。華女さんが嫌いだからって、兄貴に当たらないで」
華澄は目上の相手にも容赦がない。
「ああ、悪かったよ。ごめんな、礼太くん。ちょっとからかっただけだ」
あきれを滲ませながらも裕司が謝ってくる。
「………はい」
俯きながら返事をかえした礼太を、隣の聖が心配そうに見ていた。
妙に達観していて嫌、か。
礼太はしばらく、華澄の言葉を頭の中で反芻していた。
確かに、礼太も何度となく同じことを思った。
でもそれと同時に、良い人だとも、優しい人だとも思う。
そう思うのは、裕司さんの言うように、礼太が華女のお気に入りだからなのだろうか。
礼太にはその言葉を否定することはできない。
華女が兄弟の中で一番に礼太を気にかけていることは、幼い頃から薄々と感じてはいた。
しかし、それは勝彦叔父さんが聖を気に入っているようなのとは、少し質が違うよな、とも感じていた。
そう、気に入っているというよりは、気にかけている。
可愛がっているというよりは、見守っている。
今までぼんやりと受け流してきたことが急に気になり出して、礼太は車中で話しかけられない限りは黙りこくっていた。
奥乃 裕司は見た目に似つかわしくない安全運転をしながらそう言った。
なんでも彼は現在大学生で、若いながらに経験豊富な退魔師らしい。
退魔師を本業にする気はないが、卒業後も副業としては続けるのだとか。
「裕司兄さんには、僕と姉さんも何度か修行をつけてもらったんだ。僕たちが仕事をし始めてからも、人手が足りない時はこうやって助けてもらってるの。」
なんでも、今回の依頼の危険性を考えて、華澄が助力を求めたらしい。
「華澄と聖の頼みだしな。あの女の命令だったら死んでもやだけど」
のんびりとした口調の中にひっそりと織り込まれた毒に、礼太はびくりとした。
「あの女………?」
「そりゃ、当主様に決まってるだろ。麗しの華女さまだよ。あいつがいるから、俺は本家にはできるだけ近づかないようにしてる。」
礼太も今は華女に対してそんなにいい感情は持っていないが、少しむっとした。
空気が伝わったのか、裕司が笑い声をあげる。
「あはは、悪かったよ。礼太くんは華女様のお気に入りだったな。なんせ力がないのに妹と弟差し置いて『次期様』に選ばれるくらいだし」
「ちょっと、裕司兄さん、兄貴をいじめないでよっ」
華澄が助手席で本気で怒っている声を聞きながら、久しぶりに次期様という単語を聞いたな、とわき腹に痛みを感じた。
「わたしだって、華女さんは苦手よ。妙に達観してるっていうか、見下されてる感じがすごい嫌。でも、それと兄貴が当主に選ばれたのは関係ない。華女さんが嫌いだからって、兄貴に当たらないで」
華澄は目上の相手にも容赦がない。
「ああ、悪かったよ。ごめんな、礼太くん。ちょっとからかっただけだ」
あきれを滲ませながらも裕司が謝ってくる。
「………はい」
俯きながら返事をかえした礼太を、隣の聖が心配そうに見ていた。
妙に達観していて嫌、か。
礼太はしばらく、華澄の言葉を頭の中で反芻していた。
確かに、礼太も何度となく同じことを思った。
でもそれと同時に、良い人だとも、優しい人だとも思う。
そう思うのは、裕司さんの言うように、礼太が華女のお気に入りだからなのだろうか。
礼太にはその言葉を否定することはできない。
華女が兄弟の中で一番に礼太を気にかけていることは、幼い頃から薄々と感じてはいた。
しかし、それは勝彦叔父さんが聖を気に入っているようなのとは、少し質が違うよな、とも感じていた。
そう、気に入っているというよりは、気にかけている。
可愛がっているというよりは、見守っている。
今までぼんやりと受け流してきたことが急に気になり出して、礼太は車中で話しかけられない限りは黙りこくっていた。