あなたと私のカネアイ
「テディベア作戦って……今日の夕食の?」
「そうだよ。やっぱり結愛の懐にもぐりこむなら、それしかないかなって。あんなに部屋いっぱいに飾られてるってことは、結愛の気持ちを独占してるってことでしょ?」

 私の部屋に入ったときのことを思い出したのか、円はクスクスと笑って少し身体を離した。
 だけど、私を覗き込む表情は真剣なものに変わっている。

「結婚式まで……もう1ヶ月ちょっとだよ?」
「知ってるよ」
「結愛は、どうしたいの? お母さんから連絡来てるんでしょ?」

 そう問われ、円から視線を外す。
 今日は何回もメールと着信が残ってた。今も、部屋に置いてきた携帯は鳴り続けているかもしれない。
 ちょっと忘れていたことを思い出して、顔を顰める。
「結婚式に来ないで」と言ってしまったことは、私の非なのかもしれない。後悔とは違うのかもしれないけど、言い過ぎた自覚はある。なんだかんだで育ててくれたっていうのは、わかってるつもり。
 でも、だからってずっと私が文句を言われてきたことは変わらないし、それは譲れないって思ってる自分がいる。

「……謝りたく、ない」
「じゃあ、お父さんとお母さんに謝って欲しい?」

 それには首を横に振って答える。
 ごめんなさい、なんて一言で片付くような痴話喧嘩とは違う。
 謝ってもらいたいとも思ってないし、お父さんたちが謝るとも思わない。だって、何が私の気に障ってるのかなんてわかってない。わかってたら……こんな、二十四年間も惨めな思いをしてない。

「それじゃあ――」
「円には関係ない!」

 ああ、もう。どうして、私ってこんな可愛くないの?
 円は、私のことを心配して言ってくれてる。たぶん、お母さんから私の様子を聞かれたりもしてるんだと思う。
 でも、つい昨日、私の家庭事情を知った円に首をつっこまれたくもなかった。
 彼に、迷惑をかけたくない。
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