あなたと私のカネアイ

不安と期待

 どうしよう――それが、正直な気持ちだった。

「俺を拒まないで」と言われてからの記憶が曖昧だ。
 でも、こうしてベッドの上で、壊れそうな心臓を押さえて円を待つ時間は、期待と不安で苦しくて、これから自分がしようとしていることがどういう行為なのかを思い知らされる。

 こんなドキドキしてる私とは違って、円には余裕があるように見えた。
 今夜のことをハッキリと求めてきた言葉を口にしたのに、夕食をとるときも、レストランからホテルへの帰り道も、いつも通りだった。

 それから、大浴場の温泉へ入るために別れたのだけど、念入りに身体を洗っている自分が恥ずかしかった。身体の隅々まで泡を立ている自分を見たら、これからしようとしていることに周りの人が気づくんじゃないかと気が気でなくて……
 ゆっくりと温泉を堪能する余裕なんてあるはずもなく、そそくさと部屋へ戻ってきた私の緊張は最高潮に達していた。
 
 カチャ、と部屋のドアが開く音に肩が跳ねる。これ以上ないくらいに脈打っていたはずの心臓が、更にスピードを上げて、死ぬんじゃないかってくらい苦しい。
 顔を上げると、円と目が合った。
 彼は柔らかく笑って、冷蔵庫から水を取り出して私の隣に座る。
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