あなたと私のカネアイ

お金と愛

 それから、仕事や結婚式の準備に追われて忙しく、時間はあっという間に過ぎていった。
 そして迎えた結婚式当日。

「結愛、行くぞ」
「うん」

 緊張した面持ちのお父さんの腕をとる。
 私のドレス姿を見て、少し涙ぐんでたように見えたのは……円の影響だろうか。
 昔の私なら、「良い親ぶって」って思っただろう。
 ゆっくりとバージンロードを歩きながら思いを巡らせるのは、私の歩く先に立って待っていてくれる円と過ごしてきた短いようで長かった時間。

 ――愛を結ぶ。
 そんな上っ面だけの名前が嫌いだった。
 虐待されていたわけでもないし、捨てられたわけでもない。だけど、何かある度に「お金のかかる子供」だと言われて、“子供”の私がどうしようも出来ないことで責められて、嫌だった。
 だから、愛なんて信じない。
 お父さんもお母さんも愛し合って結婚したなんて嘘だ。
 いつもお金のことで喧嘩して、私に文句を言って、愛(わたし)よりお金が欲しかったのなら、私なんか産まなければ良かったのにって思ってた。

 でも……

「すごく、綺麗」

 私の手を取って小さく囁いてくれた円を見上げると、ベール越しにいつもの柔らかな笑顔が見えて胸がキュッと苦しくなる。
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