あなたと私のカネアイ
「円さんが私の条件を受け入れてくれることはわかりました」

 本人がそれでいいと主張するのだから、とりあえずその条件はもういい。
 でも。

「それなら、円さんは私に何を求めるんですか?」

 今すぐ、しかも今日で会うのが二回目の女と結婚したがるなんて何か理由があるに違いない。
 契約結婚――お金はやるから俺の妻のフリをしろ、とか、子供を産め、とか?
 まさか! 小説やドラマじゃあるまいし!
 いや、でもお金持ちには私みたいな庶民にわからない事情があるのかも……
 私はぶるっと身震いした。

「俺はただ、結愛ちゃんの潔さを気に入っただけだから。別に条件はないよ」

 円さんは「面と向かってお金が欲しいって言ったのは結愛ちゃんが初めてだったよ」とクスクス笑った。
 そこは普通、非常識な女だと軽蔑するところじゃないだろうか。
 やっぱり私にはわからない。

「あ。でも、一つだけ確認しておきたいんだけど」
「はい?」
「俺の考えが結愛ちゃんと違っても、いいよね?」
「はぁ……別に、気にしませんけど」

 価値観は人それぞれだと思うし、それを相手に押し付けなければどんな考えを持っていようが私には関係ない。

「じゃあ大丈夫。結愛ちゃん、結婚しよう?」

 何が大丈夫なの?
 頬を引きつらせる私を笑顔で見ている円さん。
 しばらくそのまま見つめ合うような形になって、でも、返事をしない私に円さんが「うーん」と少し唸る。

「わかった。俺も条件を出すから。結愛ちゃんの条件を呑むだけじゃ対等じゃなくて嫌なんでしょ? だから、俺も条件を出す。俺の考えを否定しないことと離婚しないこと。どう?」
「どう、って言われても……」

 元々、同意できるかできないかは別としても人の考えにとやかく言うつもりはないし、好き嫌いの概念が欠落してる私には離婚というものも関係ない気がする。
 そして、たぶん円さんはそれをわかっていて私が頷く条件を出してる。
 どうしてそこまで……?
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