あなたと私のカネアイ
 神社へ続く通りにはたくさんの屋台が並び、人も多かった。
 本格的に暑くなってきた夏の夜、こんな人でごった返したところ暑苦しいだけなのに……円は家を出たときからご機嫌で、その少し後ろをついていきながら私はこっそりため息をつく。
 濃いグレーの浴衣はシンプルで、円によく似合っている。
 私の浴衣も自分が選んだって嬉しそうにしていた彼は、落ち着いた大人の男性という印象をあっさりと拭い去って、ちょっと幼いようにも見えた。
 本当に、変な人。
 私の浴衣は、薄っすらとラベンダー色で柄は朝顔。帯もパステルカラーの紫で全体的に落ち着いた感じだ。髪の毛はお義母さんがまとめて花の飾りをつけてくれた。
 太くて量の多い私の髪を、素早く綺麗に結わえてくれたお義母さんはとても器用でうらやましい。
 そういえば、円の髪はダークブラウンの柔らかそうな髪質だけど、地毛なのかな。家で染めてるような様子はないけど、かなりマメに美容院に行かないと保てないだろうし……
 そんなことを考えて、ふと顔をあげる。

「……あれ?」

 思わず声が出た。求めていた色がなかったから。
 すぐ前を歩いていたはずの円がいないのだ。ぼんやり歩いてたからはぐれてしまったらしい。
 まぁ……とりあえず携帯に連絡すれば会えるだろう。そう思って巾着に手を伸ばしたところでグッと手を引かれた。
 ビクッとして顔を上げると円がいて、力が抜ける。

「俺で安心した?」

 クスクスと笑う円にムッとして掴まれた手を引いたけど、彼は離してくれない。触らないでって昨日も言ったのに!
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