あなたと私のカネアイ

手(2)

 軽く食べたり飲んだり、型抜きに真剣になったり……一通りお祭りを楽しんでから、私たちは帰路についた。
 来るときよりも更にご機嫌な円は、私の手を引きながら実家への道を歩いていく。そろそろ手を離して欲しい。
 飲み食いするときもほとんど手を繋いだまま過ごし、やりにくいったらなかった。

「楽しかったね。それにしても、今日一番の笑いのツボはあんず飴だね。く、ふっ」
「ちょっと、そんなに笑わなくてもいいでしょ!」

 堪えきれなくなったのか、最初から堪えるつもりもないのか……思い出し笑いをしながら肩を震わせている円に向かって怒る。
 彼の笑いが止まらない原因は、私があんず飴の屋台で水あめに巻かれた缶詰のミカンを買ったことだ。

「だってさ、あんず飴を売ってるお兄さんの前で『あんず飴は嫌いなので』って、ふふっ、あははっ!」
「じゃんけんで勝った分、円があんず飴を食べたんだからいいじゃない。それに、嫌いなものは嫌いなの!」

 小さい頃から、私のあんず飴はいつだって水あめと缶詰の果物の組み合わせって決まってる。すっぱいのは好きじゃない。
 あんず飴が食べたいと言ったのは私なのにそれを買わなかったことが、円の笑いのツボにハマッたらしい。
 私も何だってあんず飴だったんだろう。暑いんだからカキ氷とか言えば良かった。

「そうだね。結愛のそういう正直なところ、好き」
「あっそう!」

 ふん、とそっぽを向けば、円は握っていた手に力を込めてくる。
 ちょっと……これ以上握ったら潰れるんですけど!

「ゆーい! 俺、今告白したんだけど」

 そんなの知らない。
 告白も愛の囁きもいらないから、私は早く帰りたい。

「ゆーいー」

 円が文句を言うのを聞き流して先に歩く。
 離してもらえない手のせいで、彼の手を引く形になっているけど、この際それはもういい。とにかく円の実家に帰り着いて、手を離して、浴衣を脱いで……彼のペースから抜け出したい。
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