あなたと私のカネアイ
 それなのに――!
 どうしてこうなったの!?
 イライラをぶつけるように思いっきり息を吐いたらお湯がブクブクと泡を立てた。
 いつものんびり長湯するが、今日はのんびりではなく、出たくなくてふやけるくらいにお湯に浸かったままだ。
 早足で帰り着いた私を待っていたのは、今日は泊まっていったらいいという円のご両親の申し出だった。
 車で1時間弱――帰れない距離ではないけど、運転は円だし、ご両親の前ではあまり強く帰りたいとも主張できなかった。
 私にだって、一応好意を受け取る常識というものはある。円のご両親は本当に優しくて、甘えたいというのもちょっとだけ本心だけど。
 ただ、問題は寝室だ。円が以前使っていた部屋にはベッドがあるらしいけど、それじゃあ狭いだろうからと、お義母さんは一階の和室に二人分の布団を用意してくれた。
 お義母さんは私たちが同じベッドで寝ていると思っているらしい。ベッドどころか、同じ部屋ですら寝たことないのに。
 お義母さんの気遣いに引き攣った顔をしていただろう私を、円は面白そうに見てた。助け舟を出すつもりはなかったらしい。
 円がお風呂に入っている間、和室に敷かれた布団の間をできるだけ空けて、その間にお義母さんに用意してもらった予備のブランケットをバリケードとして丸めて設置してきた。
 そして今、同じ部屋で寝るというだけで「俺は結愛以外の人とはしない」と言った円の言葉が急に現実を帯びた気がして、私はなかなかお風呂から出られないでいる。
 ゆっくり、ゆっくり、髪を洗い、身体を洗い、顔を洗って、お湯に浸かってもう何十分経ったんだろう。
 さすがにここままでは逆上せる。
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