あなたと私のカネアイ
「叫ぶとか、蹴るとか……」

 そう。そうだ。
 私はザバッとお湯から出て拳を握った。
 万が一のことがあっても、本気で抵抗すれば何とかなるかもしれない。ならなくても、さすがに息子の嫁が叫んだら円の両親は駆けつけてくれるだろう。
 それに、両親がいる家ではしない……よね?
 同居しているカップルならともかく、私たちは私たちの住居があるわけだし、そういうことに及ぶならやっぱり二人きりの場所を選ぶだろう。
 だって気まずいじゃない?

「いやいやいや……」

 そこまで考えて、円に襲われる前提で自己防衛の方法を考えていることに気づき、首を振る。これじゃあ自意識過剰だ。
 火照った身体を柔らかなバスタオルで拭き、なぜか用意されていた下着を手に取る。
 お義母さんは、私が泊まるときのためにうちのお母さんにサイズを聞いて買ったって言ってたけど……今夜のことは計画的だったんだろうか。
 普段はお風呂に入った後、自分の部屋に籠もるからブラはしない。でも、円と同じ部屋に戻るならそういうわけにはいかないだろう。寝るとき、窮屈なんだけどなぁ。
 ため息をつきながらブラを身につけ、やはりお義母さんが用意してくれた部屋着を着る。
 黒に白いドット柄、胸元に小さなピンクのリボンがついていてかわいいキャミソールとショートパンツだ。パイル地で着心地はいいけど、ちょっと露出が多い気がする。
 男の人と同じ部屋で過ごすときに着るものじゃないだろう。いや、表向きには夫婦だからおかしくはないんだけど……
 まぁ、タオルケットにくるまって眠ればいいや。そう結論付けて、私は寝室として宛がわれた和室へと歩いていく。
 少しふわふわする。この暑い日に長湯なんてするものじゃないな。
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