あなたと私のカネアイ
「結愛、俺と手を繋ぐのがそんなに嫌だったの?」
「嫌だ。必要がないからって言ったでしょ?」

 うんざりして投げやりに答える。
 明日も仕事があって、いつもより早く起きなくちゃいけないから眠りたい。

「じゃあ、結愛にとって必要なものは――」
「お金」

 お金さえあれば、不自由なく生きていける。
 私が欲しいのは、穏やかな生活と自由で、それを手に入れるためにはお金が必要なんだ。誰にも文句を言われずに、好きなものを買って、好きなことをして……人生を謳歌するってそういうことだと思ってる。
 自分で稼げるようになって、理想に近づいていた人生を自ら壊すことになるとは思わなかったけど。円との出会いは予想外で、そして予想以上に私のペースを乱してくる。

「お金で買えないものもあるんだよ?」
「それって何? 私に必要なもの?」
「うん。俺は、結愛に本当に必要なものはお金で買えないと思ってる」

 俺にはわかるっていう円の気持ちが透けている気がして、私は眉根を寄せた。
 私の大嫌いな余計なお世話。

「たった二ヶ月しか私と過ごしてない円にはわからない。私が欲しいものはお金で買えるものばかりなの。愛を信じるのはそっちの勝手だけど、押し付けないで」
「押し付けたいわけじゃないよ。でも、そういう風に聞こえたならごめん」

 まただ。円は私に謝る。
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